第二十八話 刻の彼方で
〜白いモビルスーツ〜



 人はいつか時間さえ支配できると信じた者たちがいた。刻の涙を見ると言われた時代があった。だが、過ぎ去った。
 宇宙を鮮やかに彩ったニュータイプたちの魂の輝きも、今や思い出に語られる時代の一こまにすぎない。それは人々にとって幸せな事なのだろうか、それとも悲劇なのだろうか。
 しかし、それを間近に見てきたショウにとってはつい先日起きた出来事なのだ。シャア・アズナブルとアムロ・レイがアクシズと共に歴史からその姿を消してから60年の歳月が流れ去ったと聞かされても、それを現実として認識できたわけではない。カミーユの最期もプルとの別れも脳裏に焼き付いている。ショウは複雑な気分で、知っている人がだれ一人いなくなった世界の中にいた。
 逆にクレアは時代の変遷を受け入れつつも、エリスから横取りしたゲスト席の椅子をぐるぐる回転させて気を紛らわせていた。
「つまんない〜。私も木星行きたかったな〜」
「つまらないって、まだ始まってもいないだろう」
「だってさぁ、ジオンがいないんだよ。やっぱジオン軍じゃないとダメだってばぁ」
 その他愛ない雑談に、納得顔でユリウスが割り込んでいく。
「確かにモビルスーツ開発史という観点から考えれば、連邦とジオン双方の技術が相互に影響を及ぼして技術の革新を図った連関的な螺旋構造の時代が一番面白いとは言えるんですけどね」
「ああ、それなら分かるな。これ以降は軍ごとの特色はあっても関連性は乏しいからな」
 マークとユリウスは勝手にうなずいているが、話を切りだしたクレアはなんのことだかよく分からずに目をぱちぱちさせていた。
「あ、あの〜。単にジオンの皆さんがいないと寂しいな〜、ってだけの話で、えへへへっ♪」
 少しばかり冷え切った空気をショウの質問が変えた。
「そう……ジオン軍はもうないんでしょう?どうして戦争が起こるんですか?」
「ジオンの他にも、変なことをしようとする連中はいるんですよ。何年も平和が続きましたしね。小人閑居して不善を為す、ということですよ」
「よ、よくわかんないよ」
 ユリウスの言葉に戸惑うショウに、いつまでたっても馬鹿はいなくならないのさ、とマークが自嘲気味につぶやく。
「そうだな……愚かさという点では、彼らは宇宙の誰にも負けないだろう。あのジオンよりも……」
「そんな人たちがいるんですか……」
「恐怖政治というものを復活させただけでも歴史に名を残す価値があるんじゃないですか?アナクロニズムの局地ですね。
 しかしその発想力の柔軟性には見るべきものがありますよ」
「ギロチンがか?」
「そうじゃありませんよ。ミノフスキークラフトがあるのにプロペラで飛ぶんでしょう?ちょっと信じられません。どうしてそんな事をする必要があるんでしょうか?他にもバイクとか、いろいろ見てみたいものはありますよ」
「あれか……」
「う〜ん、バイクはねぇ……」
 ユリウスは未知への探求心に瞳を輝かせた少年らしい表情だったが、マークやエリス、クレアなどすでに経験のある者たちは、一様に複雑な顔になった。
「ま、見てみれば分かるんじゃない?」
 クレアは笑ってごまかすことにした。そして、話ができる時間はそこまでで終わった。
 ヨーロッパのカサレリアにある抵抗組織リガ・ミリティアの潜伏地域に到着したのである。そこではすでに何度か戦闘が行われており、のどかな緑の風景のそこかしこに爆撃の跡が残っていた。
「総員モビルスーツ戦用意。今日は新しい機体に慣れるんだ!」
「了解!」
 走っていくパイロットたちの最後にいたショウを止めて、マークは真剣な眼差しを向けた。
「なんですか、マークさん……」
「……すまないな、ショウ。こんなところまで連れてきてしまって。本当はジャブローで……悪くとも一年戦争で降りるはずだったのにな。お母さんのところに帰りたくはないか……?」
「どうして、今そんなこと言うんですか?」
「今まで言わなかったことの方がおかしいんだ。そんな事も忘れていた……」
「僕なら、いいですよ」
 ショウは力強く答えた。あどけない相貌はそのままだが、旅を始めたときにはないものが確かにそこにあった。
「ここに来なければ、みんなにも…… アムロさんやプルちゃんにも出会えなかったんです。それに、僕がいてもいなくても、結局歴史は変わらないんでしょう?」
「そうだ。だから、おまえが帰っても誰も非難はしない」
「そうじゃないんです。アムロさんたちの歴史を変えることはできなくても、僕は確かにみんなのおかげで変わっているんです。だったら……行かないといけないじゃないですか。どれだけ頑張っても、もう歴史を変えられなくなった人のためにも……」
 マークは目の前にいる少年の言葉に半ば感心し、半ば恐怖を抱いてもいた。それは普段エリスがマーク自身に向けているのと同じ感情だった。
「ララァ・スンが言ってたんです。この歴史の最後に、あの人たちにできなかったことが出来る人たちが僕を待っているって。僕はそこまで行きたいんです」
「そうか……分かった。ならば、まず目の前の戦いに生き残れ!話はそれからだ!」
「はいっ!」
 駆けだしていくショウを見送ると、艦長の椅子に座ったマークは両手を組んで鋭い視線を虚空に向けた。
 そして、宇宙世紀0153年……ここが、かつて彼らの旅が終わった時代であることを、呪わしい記憶と共に思い出していた。

 モビルスーツデッキに到着したショウは、自分の機体はどこなのかきょろきょろと見回した。ユリウスたちも同じく首を傾げている。
 新型艦ラー・カイラムに移動してきたばかりでデッキが混乱しているのかと思っていたが、事態はショウの想像より悪いものだった。
「艦長!ジェガンしかありませんよ?」
『今度はそれに乗るんだ!人数分はあるだろう!時間がない、急げ!』
「えええ〜〜っ!?」
 子供たちは仰天した。なにしろ今まで敵の量産機より性能の悪い機体に乗ったことなど一度もないのだ。
「ほらほら、さっさと出撃しないと、私がぜーんぶやっつけちゃうよ?」
 唯一据え置きのペーネロペーを飛ばすクレアは上機嫌だが、ユリウスはできればそうしていただきたいんですがと愚痴を漏らすのがせいぜいだった。
「大丈夫よ、だから私が来たんじゃないの」
 クレアの後を追ってレイチェルのサザビーが発進する。わざわざゼノン隊の戦力を削って来てくれたのだが、それなら強力な機体があったほうがよほど気が楽だ。
「ゾディ・アック、Ex−Sガンダム、量産型キュベレイ、ドーベンウルフの代わりにジェガンが4機……。確かに発展性はない機体ばかりでしたが……」
 唯一の救いはシスのキュベレイがプロトタイプ・キュベレイという形で残っていることだった。大型の機体だが、強力なメガ粒子砲やファンネルが搭載されている。
 文句を言いつつもジェガンに乗り込み、ユリウスはせめてもの指示を出した。
「敵はビームシールドを持っていますから、不用意にビームライフルを撃っても無駄に終わるでしょう。
 たぶんクレアさんが勝手に暴れ回りますから、傷ついた敵だけを狙って落としていきましょう。それから、命は大切に。危ないと思ったらさっさと逃げた方がいいですね。シスは適宜にファンネルで援護してください」
 こんな常識的な発想しかできないで、とユリウスは肩をすくめた。
「SFSに乗った旧式と、最新型プロペラ機の対決ですか。生きて帰れればいいんですけどね……」

 先に出発していたクレアはゾロの大軍に対して遊ぶようにバルカンを振りまいていた。
 ミノフスキークラフトで飛んでいる機体は、味方にはこれしかいない。その機動力を生かして敵の目を集めながら、地上にいるレイチェルがファンネルでひとつひとつ狙撃していく。ただ地上にいただけでは空中から簡単に砲撃されてしまうが、レイチェルは巧みにファンネルを操り、敵の視点を地上に向けさせない。
「……なるほど、うまいものですね。参考にさせてもらいますか。
 シスは森の中からファンネルを撃ってください。ショウとカチュアちゃんが前衛で、僕とミンミが後ろから援護します」
「おっけ〜だよ★」
 カチュアは嬉しそうに答えて機体を前進させる。ショウが隣にいるだけで彼女は機嫌がよかった。
 今までは別のチームだったりショウが一人で敵地の奥深くに突入してしまったり、あげくに他の女の子と仲良くしていたり。しかし、今日からはショウが一緒のモビルスーツ小隊にいるのである。あてがわれた機体のいつもに増してひどい性能など気にならなかった。
「カチュアちゃん、先に出すぎだよ。一人で行ったらあぶないよ」
 ショウにそう言われるとカチュアはかちんときた。今まで何度、単独で飛び出していくショウにその台詞を言いたかったことか。勝手にいろんな人と出会ってきて、カチュアをかまってくれたことはほとんどなかったのに。
「もう!私だってできるんだから!」
 運動性はビームローターに及ばないが、迷いのない動きはビームライフルの火線をかいくぐらせた。ビームサーベルで先頭のゾロを斬りつけると、後方から飛んできたファンネルのビームがとどめをさしていく。
「あーっ、撃ったぁ!ショウにやってもらうはずだったのにぃ!」
 カチュアは戦いもそっちのけで怒るが、シスは冷静に次の標的に狙いを定めていく。その間にショウのビームライフルが横にいたゾロに一撃を加え、慌ててゾロは飛行用のビームローターをシールドにしてショウに向き直る。注意が逸れた相手をミンミが撃墜するのは難しいことではなかった。
「シスはサポートの方が向いているようですね……」
 最後尾で戦況を眺めつつ、ユリウスはそんなことを考えていた。今まではカチュアとシスが斬り込み、ユリウスとミンミが援護を担当していた。しかしカチュアはいつも危なっかしいし、シスは別の方面を一人で受け持つことがある。
 しかしショウが攻撃を担当してくれれば、全体を見渡せる位置にシスを持っていける。ショウ、カチュア、シスが撃ち漏らす事があったとしても、そんな状況をフォローするのはミンミの得意分野だった。
「意外と機能的ではあるんですね。僕は手綱を握っているだけでいいのかも……」
 ユリウスはつぶやきながら、敵にビームライフルを向ける。その正面にいたカチュアが瞬時に左にずれる。斬り合っていた相手の急な動きに敵が気を取られた瞬間にビームが命中し、即座に横合いからショウがビームサーベルで撃破する。
「これがニュータイプのコンビネーションですか……。確かにマーク艦長が惚れ込むだけはありますね……」
 感嘆し、満足しながらも、ユリウスはどこかに割り切れないものを感じていた。それはオールドタイプだという劣等感や嫉妬ではないと自分に言い聞かせながら、もう一機だけになった敵がシスとミンミに落とされるのを見つめていた。

「連邦軍の攻撃だと!?どうなっているんだ!」
 ザンスカールのモビルスーツを率いるクロノクルはその報告に驚愕した。確かに連邦とは一触即発の状況下ではあるが、まだ表立っての攻撃など行われていない。
「本国に宣戦布告はされたのか!攻撃は連邦側から行ってきたのだろうな!」
「わ、分かりません!ですが……」
「分からんだと!どういうことだ!」
 部下の声は明らかに怯えていた。失態の追求や叱責を恐れてのものでは、モビルスーツのパイロットをやる男がこうはならない。
「て、敵の攻撃が!来……!」
 通信が爆発音で途切れ、アラームが鳴り響く。その一瞬前に、クロノクルの感性に危険を知らせる警報が鳴り響く。
 攻撃は一瞬だった。威嚇射撃のバルカンを撒きながら敵機が通り過ぎた。
 報告書にはこの通りにしか書くことはできないだろう。だが、それは現実に命を賭けて戦う前線の将兵にとっては、まさしく白銀の怪獣としか表現のしようがない化け物であった。
 もはや小型モビルスーツが当たり前の時代に、大型の機体など標的になるだけだ。高速移動をすれば接触事故の危険も大きくなる。それが人類に耐えられるはずのない速さで駆け抜けるのである。反撃などできるはずもなく、ただ衝突を避けるだけで精一杯であった。そしてザンスカールのパイロットたちは、その機体にガンダムの顔を確認して恐慌した。
「ガンダムです!あの怪獣は!」
「うろたえるな!大型など旧式機にすぎん!ええい……!」
 反転して帰ってくるペーネロペーに対しての一斉射撃は人外のスピードに振り切られ、防衛線はなすすべもなく崩される。二度目の襲撃が過ぎた後で、不意に数機のゾロが爆発した。ペーネロペーからの攻撃ではなかったとクロノクルが気付いた時には、すでに半数のゾロが失われていた。
「どこから攻撃してくる!?クッ……!」
 ニュータイプの意志に操られ、空中を自在に乱舞する小型の移動砲台……ファンネルという兵器が戦場の主力であった時期も、もう遠い昔のことになっていた。そのためにザンスカールの兵士たちは対応できずに倒れていくことになったのである。

「まだ元気だよ、カミオン」
 クレアはゾロ隊を駆け抜けた際に、友軍である武装トラックが無傷でいることを確認していた。それをラー・カイラムに伝えると、すでに引き上げているレイチェルの後を追う。
「バルカンで牽制してファンネルで狙撃って作戦はいいみたいだね」
「クレアの機体がああじゃなかったら、あれほど巧くいかないわよ。それにクレアじゃなかったら、周りに人の意志が絡みついて……」
「大丈夫だよ、レイチェルならうまくやれるって」
 補給を待つ間もクレアは上機嫌だった。やはりレイチェルとのコンビは馬が合うのだ。レイチェルからの評価も気持ちがよかった。
 隣にレイチェルがいてくれるから遠慮なく突撃できる。ケイが整備をしてくれるから機体に無茶をさせられる。エリスが待っているから絶対に帰ってくると約束できる。自由行動を認めてくれるマークが指揮官であり、愛機のペーネロペーに巡り会い、それにユリウスが熱核ギガブースターを搭載してくれた。
「幸せだな、私」
 そのつぶやきを聞き逃したレイチェルが何のことか問いかけたが、クレアは照れ隠しに笑うだけだった。

 モビルスーツ隊を一瞬で混乱させた白銀の怪獣と赤いファンネルを放った機体がラー・カイラム級の戦艦に戻っていき、入れ替わりに来たのは旧態著しいフライングアーマーに乗ったジェガンの小隊である。
「やはり敵は旧式だけか!クッ、だからか……!」
 切り札を投入して混乱させてからでなければジェガン隊を投入するのは危険だと判断したのだろう。クロノクルはそう読みとった。
 ならば、落ち着いて戦えばいいはずだ。
「相手は旧型だぞ!あの怪獣が補給を終える前に落とすんだ!」
 先頭のジェガンがビームサーベルを抜いて斬りかかってくる。しかし運動性はゾロが遙かに勝っているのだ。今時フライングアーマーなどを使っている、そもそも単体で飛行できない機体など敵ではない。
 ビームローターの出力を上げて真上に位置をずらせば、相手は真下を通過していくしかない。それを狙撃すれば撃墜できる。
 それを思い立った瞬間、相手はクロノクルの考えを読み切ったように行動した。しかもそれは目の前の一機だけではないのだ。
 突進する先頭の機体は角度を変えてビームライフルの射線から身を反らす。代わって、下からはファンネルの攻撃が浴びせられる。クロノクルが移動しようとした位置には、すでに後続のジェガンがビームライフルを撃ち込んでいる有様だ。
「……敵には予知能力者でもいるのか!」
 上方への待避運動をファンネルの回避に費やし、ビームローターを盾にしてビームを防ぐ。下を駆け抜けていく先頭のジェガンを撃つ余裕など与えられなかった。
 クロノクルは背筋に冷たいものを感じていた。機体は旧式でもパイロットは常人ではない。
 これがかつてガンダムと同じく伝説に謳われたニュータイプと呼ばれる者たちなら、奇跡的な戦果は偶然ではない。本当に戦場の趨勢を覆すだけの力を持った戦士たちの存在を感じ、クロノクルは生き残ることを優先すると心に決めていた。

「いい運動性です。やりますね、敵のプロペラ機は」
 ショウとカチュアが突撃して敵陣を突破し、開けた穴をシスのファンネルが広げていく。二度目になるこの攻勢は早くも効果を発揮しだしていた。
 隙ができた者から叩いていると、心に余裕ができたユリウスはふと疑問を浮かべた。
 分離しているゾロの下半身はビームローターなしでも飛行している。そもそも、モビルスーツの重量をプロペラなどで飛ばせるはずがない。当然ミノフスキークラフトが装備されているのだ。
 ならば、彼らはどうしてわざわざビームローターを使っているのだろう?
 姿勢制御に必須というわけでもないらしい。ビームローターを盾に使っている間であっても、ゾロが墜落したりはしないからだ。
「うーん…… なんなんでしょうか?捕獲してみるまで分かりませんね……」
 それも後の楽しみです、とユリウスは指揮官の頭に戻した。ビームライフルを使ってビームシールドを構える方向を固定させ、その間にファンネルで攻撃する戦法は成功している。しかし、やはり格闘戦の不利は否めない様子であった。
「ショウー!」
 いつになく苦戦しているショウの耳にカチュアの声が届く。
「だめだよっ……!どうしても、先に逃げられちゃう……!」
 フライングアーマーでは接近しようとしても直進するしかできない。相手は上下左右自由に移動してしまう。ビームサーベルで捕まえるのは至難の業だった。結局敵機を撃墜しているのはショウの動きを牽制に利用したシスのファンネルやユリウスのビームライフルである。だからと言って、ビームライフルでの射撃一辺倒になってしまってはビームシールドで防がれるだけだ。
 どうすることもできずに思案に暮れていたとき、補給を終えたペーネロペーが再度乱戦の中を突破していく。ラー・カイラムからも遙かに離れた位置にいるカミオンを襲う部隊を捕捉し、軽快にビームサーベルで斬り落としていく。
「いいなぁ、あんなスピードだったら……」
 ショウはなにげなく言葉を漏らし、それにヒントを得てハッとした。そして再度フライングアーマーを飛ばせて、クロノクルの赤いゾロに突進した。また同じように上方に待避するゾロだが、ショウはスピードを緩めなかった。
「馬鹿な……!激突するぞッ!」
 手遅れになる寸前、ショウはフライングアーマーからジェガンを飛び出させた。
 突っ込んでくるフライングアーマーをビームシールドで受け止めたクロノクルに、勢いのついたジェガン本体が飛びかかる。
「これならっ、どうだーっ!!」
 二発のミサイルを受けてゾロの胴体に軋みが走る。そこに突き立てるようにシールドの先端をぶつけて、二つの機体を固定したショウは満を持してビームサーベルを振りかぶった。
「クッ……なんたるザマだッ!」
 クロノクルは破損した下半身を切り離し、上半身をヘリ型に変形させて撤退に入る。目標を見失ったショウのジェガンは真下に転げ落ちた。その下で、カチュアが抱きとめるように腕を大きく広げて待っていた。
 ジェガン部隊の戦いを見守っていたマークとエリスも、勝利を確信してようやく安堵の息を吐くことができた。
「もう順応してるな、ショウは」
「ものをよく壊すのがこの時代の戦い方じゃないのよ、マーク……」
 エリスの気苦労はまだまだ終わりそうになかった。少なくとも、この時代を無事に通り過ぎること……つまり、彼らができなかったことを成し遂げてくれるまでは。
 帰艦するモビルスーツたちを眺めながら、エリスは最悪の想像ばかりする自分の性格に苦しめられていた。

『連邦軍が味方してくれるとは正直思っとらんかったよ。どこの部隊かね』
「我々は軍紀違反の部隊ですよ。名前を知ればそちらに迷惑がかかります。ただ、連邦軍の中にもジン・ジャハナムを尊敬する者は皆無ではないと、まあ一般論を言っただけですがね」
 カミオンと通信するモニターの向こうを覗き込んだ子供たちは、老人ばかりの相手の中に、自分たちより少し年上の少年たちの姿を見つけた。
「あの子たちもパイロットなんですか?」
「ええ、シャッコー……黄色い機体に乗っていたでしょう?何も感じなかった?」
「はい…… 特に、なにも……?」
 ショウは再び、この時代の違和感を思い出していた。アムロ、シャア、カミーユ、フォウ、ジュドー、そしてプルとプルツー……
 出会った瞬間に心を通わせることができたニュータイプたちの波動が分からないのだ。ウッソ・エヴィンと名を教えられた少年パイロットからも、鋭さも温かさもこれといって感じはしなかった。
「ウッソもニュータイプだって…… でも……前の人たちみたいじゃないんだ……」
 ショウは少し浮かなげな表情で、モニターの向こうをぼんやりと眺めた。アムロ・レイとシャア・アズナブルが歴史から姿を消してから60年……ニュータイプという言葉は、すでに人類の未来の理想という意味で使われることはなくなっていた……。


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