第二十九話 ユリウスの日記
〜戦士の輝き〜



 ニキ先生、いかがお過ごしでしょうか?
 結局ビームローターの利点はよく分かりませんでした。
 それ以上に疑問なのは、普段推進力に利用しているものを盾に使っているとき姿勢制御はどうなっているかです。かえって邪魔なのではないでしょうか……。実際には問題なく動かしていたようですから、誰かが問題を解決したのでしょうが。
 ヘリはよく分かりませんでしたが、次はいよいよバイクです。モトラッド級の原型になったという兵器ですからヘリよりは期待していたのですが、マーク艦長やクレア中尉は微妙な表情をしていました。
 画期的な新戦術や確固とした検証の末に開発されたものではなく、コロニーで暮らしていて地球のことがよく分かっていない人たちが地球で使われていた乗り物を無闇に使ってみただけなのではと思っています。
 馬鹿な話なんですが、僕は黒歴史にやってきて、人間は愚かな選択をするものなのだと学んだような気がします。単純な戦術ミスなどではなく、大局的に考えれば明らかに間違っている事でも目の前の勝利のために行ってしまう。ティターンズがそうでしたし、ザンスカール帝国はそれに輪をかけてひどい。
 僕は、人が死ぬのを見せ物にするところを見たんです。

「テレビでギロチンの様子を放映している。見たくない者は見ない方がいい」
「ええ〜!ち、ちょっと待ってよ!?」
 マーク艦長が言うと、いつものようにクレア中尉がオーバーに反応を返します。このときは、僕は普段と同じように、中尉が大げさに騒いでいるだけだと思っていました。
「なんでまたこの時に来るのぉ!?飛ばせばいいでしょぉ〜!」
「でもクレア、重要な場面なのは確かなんだから……」
「一回見たでしょー!もういいじゃない、あんなの二度も三度も見たくないわよ〜!」
「だって、初めての子だって……」
 そこまで言うと、エリス大尉は僕たちを見回しました。
「確かに、見せない方がいいわね。人があんなふうになるところなんて……」
「なになに?どうなっちゃうの?」
 カチュアちゃんの質問は、子供は知らない方がいいの、とだけで退けられました。大人がこんな言葉ではぐらかすのは嫌なんですが、エリス大尉は本当に善意で言ってくれたのだと後で分かりました。
「自分の部屋に行っていてもいい。今日は戦闘を行う予定はないからな」
「なら飛ばしてよ、もぉ〜!!」
 クレア中尉は逃げるようにブリッジから走り出ていきます。レイチェル少尉は追いかけていきましたが、ショウとミンミは不安そうに見ているだけでした。
「あなたたちも外にいた方がいいわよ。よくないことだから……」
 ショウとカチュアちゃんはシスを連れて出ていきました。ニュータイプたちはなんとなく察したのでしょう。ミンミも後を追って、後は僕だけが残されました。
「ユリウス、あなたも……」
「僕は残ります。自分の目で見ておきたいんです。僕は目を閉じていても見える人とは違うんですから」
 そう言ってから、僕は自分で嫌な気分になりました。ショウにコンプレックスを持ってるわけでも、ニュータイプに嫌味を言いたかったわけでもなかったのに。
 マーク艦長もエリス大尉も何も言いませんでした。また嫌われたのかもしれません。
 誰も何も話さなくなって、しばらく嫌な雰囲気が続きました。しかし、それも画面に映し出されたものに比べればどれほどよかったでしょう。
 僕はギロチンを見るのは初めてです。小説の挿し絵や、アンティークの画像を見たことがあるので形は知っていたのですが、そこに人が押し込まれているのが現実の光景だとはしばらく思えませんでした。
 詰めかけている大勢の人たちの中にも喜んでいる人はいませんでした。嫌悪感を催すのが自然な反応でしょう。
 そんなものだからこそ、僕はこの目で見ておきたかったんです。見たくないものから逃げるためにこの戦いに参加したわけではありませんから。
 刃が落とされ、人の首が転がる。それだけで終わりました。
 人は、なんて簡単に死んでしまうものなのでしょう。たったこれだけのことで、もう二度とあの老人は立ち上がることも話すことも、思考することすら永遠になくなってしまう。彼はリガ・ミリティアの首脳陣の一人です。彼が生き続けていたら世界にどれほどの影響を与えたでしょう。それを、死は簡単に摘み取ってしまう。
 これだけのことで反戦主義に陥るほど愚かではないつもりですが、それでも憤りを感じることを抑えることはできません。それは死という現実そのものにではなく、こんな形で人の命を絶つ者たちへの反対であるべきです。
 人の死は平等ではありません。漠然としてはいますが、そこには価値の大小があります。
 僕はこれまで大きな人の死をこれまで何度も見てきましたし、将来何かを成し遂げるであろう人物の死は、その生と比べて価値は劣るはずです。生と死の価値を貶める者たちにこそ怒りは向けられるべきなのです。闇雲に戦争の惨禍を嘆くのではなく。
 それができるのが人間の知恵であり、文明であるはずなのです。

 部屋に帰って頭を休めようとブリッジから出たら、僕は再度いたたまれない気分にさせられました。
 カチュアちゃんがショウに抱きついて大声で泣いています。ショウも目を閉じて震えていました。シスは黙っていましたが、体はこわばっています。
 ソーラ・システムの時に同じ事があったので、僕は何が起きたのか分かりました。彼らは映像を見たわけではないのに、人の死を感じ取ってしまっていたんです。
 この時になって、僕は初めて自分がニュータイプでなくてよかったと心の底から思いました。
 死を体験して生きる事はできません。死ねばそこで全ての感覚がなくなるのですから。でも、それは僕たちオールドタイプの話です。
 彼らは違う。死んだ瞬間や、もしかしたらその後に待っている体験すら自分の実感として認識してしまう。しかも、それを意図して遮断する方法はないようなのです。
 それは、ただ死ぬことよりもはるかに辛い体験でしょう。僕には想像することしかできませんが、それでもクレア中尉やレイチェル少尉の吐き気を抑えるような顔を見れば少しは分かります。
「エリスぅ、今夜一緒に寝ようよぉ。一人じゃ怖くて寝れないよ〜」
「もう、子供たちが見てるのよ?あなたは隊長なんだから……」
「そんなこと言っても、やだよぉ。ね、一緒に寝てよぉ〜」
 僕はエリス大尉にしがみついているクレア中尉を羨ましいとすら思っていました。どれだけ無様でも、クレア中尉の心に何が起こったのか、感覚を共有する仲間がいるんですから。僕はカチュアちゃんやショウから見れば、一緒に悲しみを和らげあう仲間には絶対になれないんです。
 そして、僕は怖いとは言い出せませんでした。この場にいる中で、本当は僕が一番何も知らずにいたのですから。実際に映像を見たというのに。


 ニキ先生、いかがお過ごしでしょうか?
 こちらはあいかわらずジェガンばかりですが、順調に戦いを進めています。
 バイクはなかなか興味深い性能を見せてくれました。あの大きさでメガ粒子砲を搭載し、悪路の走破性や機動性は見るべきものがあります。モビルスーツの介在しない市街戦やゲリラ戦に力を発揮するのではないでしょうか。
 しかし、どうしてそれが対モビルスーツの戦闘に出てくるのかはよく分かりません。すでにミノフスキークラフトで空を飛び、ビームシールドでメガ粒子砲を防ぐ時代なのです。一年戦争のジャブロー攻略戦で登場していたら、あるいは活躍できたのかもしれませんが。旧式機のジェガンでもフライングアーマーで飛んでいたので、バイクが地上を走り回っても衝突する危険はありませんでした。
 それに対して、こちらはシスのドーガが持つピクセル・ビットが切り札でした。バイクが向かってくる場所に、網のように待ち受けて攻撃したのです。モビルスーツなら飛んで避けることもできたでしょうが、バイクは二次元的な回避方法しかありません。それを中心に上空からの射撃も加えて、あっけなくバイク部隊は壊滅しました。これを元に巨大戦艦を作ることになるザンスカールですが、やはり今のままではモビルスーツ相手では勝負にならないと気付いたのでしょうか。
 敵パイロットの一人がバイク乗りの魂がどうとか言っていましたが、ショウの返事は容赦のないものでした。
「おじさん、暴走族なんてよくないよ!」
 バイクの隊長は言い返す気力もなく退却していきました。あとで言っていいことと悪いことがあると教えておいたのですが、果たしてショウに通じたでしょうか。

 バイクとは別の方向から攻め寄せてきたヘリの部隊は、クレア中尉たちが足止めしている間に駆けつけたリガ・ミリティアの部隊と、ニュータイプのウッソ・エヴィンが操るVガンダムの活躍で退けられました。僕たちも無事にVガンダムを入手できたのですが、今後の戦闘はこれだけでは厳しいでしょう。今までの勝利は、ヘリやバイクなどのよく分からない兵器を敵が実戦投入するなど、敵側の失策が大きかったのです。敵が戦い慣れしている時代ならどうなっていたでしょう。
 今後ザンスカールがまともな兵器を繰り出してきたら、いかにニュータイプ部隊と言えどもジェガンでは撃墜される危険があります。最悪の事態に陥る前に戦力の増強が必要だと考えます。
 新しいモビルスーツの受領が不可能な状況であるなら、あれを使うしかないかもしれません。

 昨日はいろいろあって長く書いてしまいましたが、あの後ベッドに入ってしばらく寝付けずに考えたんです。こんな事を書き留めるのは恥ずかしいですが、今の僕の本当の気持ちですから。
 本当は、あの夜、僕もニキ先生の隣で寝たかったんです。


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