第三十話 何よりも大切なもの
〜ジブラルタル攻防〜
ニュータイプによる人類の革新という希望が過去のものとなってしまったとしても、ガンダムという名を持つモビルスーツの歴史が終わる事はない。宇宙世紀153年という時代においては、むしろその名の持つ特殊性はかえって高まっているとさえ言えた。
ニュータイプという言葉がかつての輝きを失うと同時に、彼らが担っていた奇跡の希望はガンダムが背負うことになったのである。
それがただの笑い話ではないことは、それを敵に回すザンスカール軍の反応が最もよく表している。彼らはそれをガンダムタイプと称する事を頑なに拒み、ビクトリータイプと呼び表しているのだ。
ビクトリー・ガンダム。
そう名付けたリガ・ミリティア開発陣の祈るような気持ちが、ショウたちには痛いほどよく分かった。なぜなら彼らの乗るモビルスーツは、その新型の横に並んでいる頼りなさそうな面々だからである。
しかし、子供たちをよそに、ケイは今日も朗らかだった。メカニックの彼女にとってみれば、サイコロガンダムであろうとHiνガンダムであろうと、居並ぶ雑魚モビルスーツと同じ位置付けなのだ。
「ユリウス君はリーダー機だからジェガンAタイプ!なんと自力で空が飛べちゃうよ!」
「歩いた方がまだマシと言ういわくつきの機体ですね」
「ショウ君のはジェガン改、あのクワトロ・バジーナが使った百式の技術が導入されてるの!」
「でも、ただの百式の方が強そうだよ?」
「カチュアちゃんは見たこともない新型GDストライカー!ジェガンより旧式とは思えないほど充実した武装!」
「ってことはジェガンより弱いんじゃないの〜!」
「ミンミちゃんはジェガン重装型、ショルダービームキャノンがかっこいい!」
「重装型の割には元より武装が減ってるのは気のせいでありますか」
口々に返ってくるツッコミとげんなりした表情に、ケイもわずかに逃げ腰になった。
「もう〜、みんな細かいんだから〜。子供はもっとおおらかに、ねっ?」
子供たちの厳しい視線に追撃され、じりじりと後ずさるケイ。
「いいよね〜、シスは。いっつも一番いい機体が来てさぁ」
カチュアは後ろを向いて、一機しかないVガンダムに乗ることが最初から決まっているシスに嫌味な目線を送る。
確かにこのようなモビルスーツたちでは、新型ガンダムがうらやましく見えるのも仕方がない。
だが大仰な名前とは裏腹に、Vガンダムはあくまで優秀な量産機にすぎない。ZZガンダムやνガンダムのように、一機で戦局を激変させるために作られたものではないのだ。
「あながち良くなってるわけではないですよ。機体の性能もそれほど高いわけでもないですし、サイコミュ兵器もない……。
……と、なると、本当にあれを使うしかないようですね。シス、ちょっと来てください」
ユリウスについていくシスを見送りながら、カチュアもショウもなんとなく嫌な予感がしていた。とはいえ、目の前にある自分の機体ほどではないのだが。
「バーサーカーシステムを使う?ビクトリーにか?」
ブリッジでマークが報告を受けたときには、すでに装置の組み込みが終わった後だった。許可を待っている余裕はなく、また否定されるつもりは最初からユリウスにはなかったからだ。
「本当ならもっといい機体が欲しかったですよ。でも現状で使えそうなのはVガンダムしかないじゃないですか。打てる手から打っていかないと、本当に手遅れになりますよ?」
マークは戦場になる地域の地図を見ながら難しい表情をした。海岸線に備えられたガチャベースの側に、滑走路が宇宙へと向かっている。これが今回の作戦の要諦であり、マークの頭痛の種でもあった。
「今日の作戦は、この滑走路から飛び立つシャトルの防衛だ」
直接言われなくとも、それだけでユリウスはマークの言いたいことが理解できた。バーサーカーシステムを装備した機体が大暴れをしてシャトルや滑走路まで破壊しては作戦は失敗なのだ。以前にバーサーカーシステムを試した作戦では、敵艦数隻を落とすだけで、制約のない状況だったのだが。
「大丈夫ですよ、安定性は十分向上しています。元々バーサーカーシステムは精神高揚の代償として冷静な判断力が失われてしまい、精神力の消耗も激しいという欠陥がありましたが、それを直そうとしたのが開発の理由なんですよ」
ユリウスは自信ありげに言うものの、バーサーカーシステムという名前はどうしてもかつての驚異的な力と、止めようのない破壊の嵐を思い起こさせる。
「ユーリィたちには海上の防衛させてさ、私が滑走路守ろうか?」
「ショウ、シスに万一のことがあればお前が守ってやってくれ」
言い出したとたんに無視されたクレアはすねたが、誰もが薄々バーサーカーシステムの暴発よりもクレアの誤射の方が危険性が高いと感じていた。
「シャトルが無事宇宙に行けばそれでいいわけじゃない。この滑走路はコロニー引っ越し公社が、地球に残った遺産を宇宙に運び出すために使っているものだ。つまり……将来、この滑走路で運び出せたもの以外は、地球の歴史の遺産は全滅してしまう……」
「そう……ですよね。そうなりますね」
ユリウスやエリスは、マークの言葉の重大さが分かった。
その運命が訪れるのは遠い将来のことで、この日の戦闘の影響など、その時に至っては微々たるものかもしれない。しかし、それでも地球の遺産の保護という言葉の前には、ユリウスもやはり慎重にならざるを得ないのだった。
「シスちゃん、本当に大丈夫なの?また変なことになってない?」
「大丈夫…… システムは安定しているわ」
「だからって、またバーサーカーシステムなんか……」
不安そうにシスに話しかけるショウの耳に、ユリウスの不満そうな声が届く。
「バーサーカーシステムU、です」
「Uって……どこか違うの?」
「まず起動エネルギーを外部供給制から内部ユニットへの仕様変更。次に精神状態を極度の興奮状態からある程度の昂揚状態で均衡させることにより安定性を飛躍的に高めました。この結果、相乗効果として挙げられるのがサイコミュ兵器を使用する場合に…… ショウ、聞いてます?」
「ぜ、ぜんぜんわかんないよ」
ユリウスはため息をつきながら、理解できているシスに話を続けた。
「シス、敵軍には一人で向かってください。ショウが後ろにいますが、システムのせいで危険になる可能性はありません。
くれぐれも味方や滑走路を巻き込まないように注意してください」
「了解……」
単機で先行するシスのVガンダムを見送るショウは、やはり不安は不安だった。
「カチュアちゃん、大丈夫だと思う……?」
「いいじゃない、一人だけガンダムに乗ってさぁ?それより、なんでいつもシスの方ばっかり見てるのよぉ?」
「そ、そんなこと、言わないでよぉ……?」
ショウはカチュアから逃げるように発進して、シスが戦う姿を後ろから見守ることにした。バーサーカーシステムU起動します、そう短く通信が入った直後だった。
Vガンダムの手に持つビームサーベルが異常な大きさのビームを放つ。ショウは自分がエルピー・プルを破滅の歴史から救い出すとき発動させた、サイコガンダムMk−Uを一撃で倒した魂の輝きの剣を思い出していた。
しかし、あれは奇跡だ。シスがやっているのは、Vガンダムという機械がその出力を飛躍的に上昇させた結果である。強力な魂の力も必要としておらず、何度でも同じ力で戦うことができる。
巨大化したビームサーベルを無造作に振るうだけで、トムリアットは次々に吹き飛ばされる。その姿はカミーユが最期に見せた無敵の戦闘力を彷彿とさせた。
「す……すごい…… どうなってるの……?」
「あのくらいは当然やってくれるでしょう。バーサーカーシステムUを装備したVガンダムの攻撃力は、いまやサイコロガンダムをも凌駕しているんですから」
ユリウスは平然と答えた。だが曲がりなりにも同等の力を発揮したショウから見れば、この力は異常なものにしか見えなかった。
「サ、サイコロより強いの!?」
「おおむね予想通りの結果ですね……。ということは、やはりVガンダムがもう一機くらいないと……」
「あんなの作っておいて、これ以上何がいるんだよ?サイコロだって一回使ったらもういらないって、使わなくなったじゃないか!」
ショウは憤るが、ユリウスが冷静なのは変わらない。バーサーカーシステムUの戦果にも、驚きもしなければ喜んでもいなかった。
「……ショウ、今からどうしましょう?」
「えっ?」
ショウの機体の横を通って、Vガンダムは凄まじいオーラを放ちながら撤退してしまう。鮮やかな引き際と言うべきなのか、それとも戦場を一瞬で制圧しかけた怪物の唐突な帰艦に虚をつかれたと言うべきなのか。戦場には生き残りのトムリアットと、ショウのジェガン改だけが残された。
考えてみれば当たり前のことだ。あれだけの大出力のビームサーベルを連続で使い続ければ、小型のVガンダムのエネルギーなどあっという間になくなってしまう。バーサーカーシステムUは奇跡ではなく、あくまで機体の出力を上げる装置にすぎないのだから。
ユリウスたちも出撃してきたが、ジェガンの改修機の小隊と超人的な活躍を見せたシスのVガンダムを比べると、見劣りどころか比較すらできそうにない。
「確かに……ガンダム、もう一機くらい欲しいよね」
「ふんだふんだっ、だから私がやるって言ったのに〜?」
案の定子供たちが苦戦していると聞いて、クレアはすねたように頭を振った。
援護に行かないのは、ガチャベースから滑走路に急行したラー・カイラムの背後から敵の援軍が迫っており、挟撃される形になるからだ。クレアがわがままを言っているだけではない。
「そんなこと言っても、しょうがないでしょう?あっちはいい機体がないんだから」
「だったら、レイチェルが助けに行ってもいいよ?」
クレアの意志は、こっちは私一人でやるから、と言っている。そういうわけにもいかないでしょ、とレイチェルは返した。子供たちの援護をしながらクレアのお守りまでは一人では無理だ。なにより、敵は目の前に迫ってきていた。
『敵増援部隊出現しました!』
「了解〜。……マリア、敵ガチャベースの方に行くよぉ!?」
『ええっ?』
六機の敵編隊のうち、後方の二機がガチャベースに向きを変えていく。防衛用のガーダーはあるものの、モビルスーツの援護は全く備えられてはいなかった。
『援護に行ける人は!?』
「遠すぎるって!いるわけないじゃない、そんなの!」
クレアの台詞は、私以外は、と続くはずである。だがニュータイプはよく肝心なところを省略したまま会話をするため、マリアは突然飛び出したペーネロペーの姿を呆然と見送るしかなかった。
「……ペーネロペー、指揮範囲から離脱しました。通信不可能です」
マリアの報告を受けたマークは、クレアは自分のことは無視して子供たちへの援護に向かって欲しいと思っているのだと察した。どれだけ距離が離れようと、熱核ギガブースターの機動力なら一瞬で追いつけるからだ。
だが、やはり艦長としてはそういうわけにはいかないのだ。敵も分散したが、ラー・カイラムの護衛はレイチェルのサザビー一機だけになってしまった。
「本艦待避!ペーネロペーと通信が届くところまで移動するんだ!」
「でも、それじゃショウ君たちが……!」
「ぎりぎり両方指揮範囲に入る!なんとか持たせるんだ!」
苦戦するマークは忘れていた。指揮範囲ぎりぎりの距離からでは、ペーネロペー以外ではすぐに帰艦することはできなくなってしまうということを。
一方のクレアは、通信が届かなくなった事態もさして驚いてはいなかった。自分でそうしたと言うこともあるし、なにより特攻に慣れてしまったのだ。熱核ギガブースターの超人的推力と同じく、指揮範囲外に平気で飛び出すという常識外の行動さえも、クレア基準では別に大した事ではない。
「ガーダー動いてないのぉ?担当は…… あ、ユーリィか」
ユリウスたちはちょうど反対の位置で戦っていた。彼が操作していないなら、近くの機体から指示ができるようになっているはずだ。
「ガーダー1番と3番、クルージングビット射出。ランダム軌道で牽制して。
ガーダー2番と4番、ハイメガスコア発射準備!射程内に捕捉したらすぐ発射!」
クレアはビームシールドだけでは防ぎきれない武器を指定した。期待通りに敵は無軌道なビットを簡単に回避し、強力なメガ粒子砲の発動に注意を取られている。
「もらったよっ!秘剣つばめ返しーっ!!」
クレアの気合いと熱核ギガブースターの推力が噴出し、この世のものとは思えない攻撃が現実となる。
ペーネロペーから放たれる斬撃もクレアの声も、ザンスカールのパイロットは認識さえできなかっただろう。この時代では規格外れの大型機が、巨大なビームの間をすり抜けるように突撃してくるなど常識では考えられない。そんなことをすれば同士討ちになるだけだ。
ただし、パイロットが才能を開花させたニュータイプなら話は別なのだ。こと、常識外の行動ならクレアは世界一である。
一瞬の爆音の後には、ガーダー付近の空域から飛び去るペーネロペーの姿だけがあった。
「さて、みんなはどうしてるかなぁ? ……ん?」
自分のことは忘れて全力で戦っていると思っていたクレアは、思ったより早く通信が聞こえてきたことに違和感を感じた。
『誰かいないんですか!誰でもいいです、至急援護に来てください!』
「ええっ!?どーなってんのぉ、そっち!?」
ユリウスの声に冷や汗をかいたが、この機体の速さで一度着艦すると決めてからコースを変えることは不可能である。格納庫にペーネロペーを降り立たせてから、クレアは大きくため息をついた。
逆に、戦場に置き去りになった格好の子供たちは大慌てになっていた。
『ラー・カイラム、後退します。通信が届く距離に気を付けてください』
「後退距離が長すぎますよ!僕たちが戻れませんよ、これじゃ!」
ユリウスはモニターに映し出される味方機の情報を見たが、Vガンダムはまだ補給が終わっておらず、サザビーは艦の周りの敵機と戦っている。四機を相手にしているレイチェルに援護は頼めなかった。サザビーと一緒にいるはずのペーネロペーはどこに行ったのか、図上のどこにも見あたらない。撃墜されたとは夢にも考えられないので、指揮範囲の外まで飛んでいってしまったのだろう。
「仕方がない…… 後退しながら戦います!シスが帰ってくるまでこちらが撃墜されなければ、それでいいですから!」
「それじゃ、滑走路はどうするんだよ!?」
「ウッソ・エヴィンとシュラク隊に守ってもらいます!」
ユリウスはそう言うが、この時代の友軍は決して頼りになる存在ではなかった。珍しく敵より高性能の機体があるのに、この戦いでもすでに一人撃墜されている。
それでも、場合が場合である。ショウに叫び返すと、ユリウスは弾が切れたら全速で後退してくださいと指示を出した。
こういうときに真っ先に退却するのはたいていミンミだ。それは格好悪いかもしれないが、誰よりも多くの攻撃をしていることの裏返しでもある。特に、援護を担当する機体は弾切れを起こしがちになるものなのだ。
しかしフライングアーマーの機動力ではラー・カイラムにたどり着けない。攻撃の的になるよりはマシなのだが、やはり焦りが浮かんでくる状況には変わりなかった。
次に退却するのは最前線で斬り合うショウとカチュアだ。ユリウスは普段は後方にいる代わりに、彼らが安全なところに行くまで盾になる覚悟を決めていた。しかし、状況はショウとカチュアがニュータイプの能力で危険を感知し、前方に飛び出した瞬間に変わってしまった。しかも、二人は別々の方向に飛び出したのだ。
その理由はすぐにユリウスにも分かった。マリアからの通信はさらなる状況の悪化を伝えるものだった。
『敵増援部隊、ラー・カイラム横を通過。滑走路に向かって直進中です。
滑走路が危険です、注意してください!』
ザンスカールのモビルスーツ隊がレイチェルの横を駆け抜ける一瞬に撃墜されたのは二機。残るトムリアットとメッメドーザに、カチュアとショウが飛びかかっていく。
「ショウ!弾はどれだけあるんです!」
「二発あるよっ!これで十分さ!」
ショウはメッメドーザを倒すことまでしか考えていない。しかし、ユリウスには二手に分かれた味方の片方にしか援護できそうになかった。ユリウスはカチュアと二人でトムリアットを落としながら、全員が同じタイミングで弾切れになったらどうなるのか考える頭がショウにあったら、と無理なことを考えていた。
「ビクトリー!サザビー!ペーネロペー!誰かいないんですか!
誰でもいいです、至急援護に来てください!」
ユリウスの叫びは届くことは届いたが、彼らが手をさしのべられるかどうかはまた別の問題なのだ。
実のところ、ショウはきちんとコックピット内の表示や計器を確認しながら戦っているとは言い難い。ショウにとってはニュータイプの感覚で把握できる状況で十分なのだ。
助けに出撃しようと思っているシスの意志。補給を必死に急いでいるケイの意志。クレアが帰ってきたことで再び前進を考えるマークの意志。それらが感じ取れればそれでいいのだ。絶対に助けに来てくれるし、絶対に間に合ってくれると心の底から信じていた。どう頑張っても無理という言葉は、大人の言い訳にしか聞こえない年頃なのである。
「あと二発か…… えっと……!」
ショウの頭の中の最低限の……ユリウスに言わせれば最低以下の……データを元に、彼なりの計算で作戦を立てた。結論がクレアとほぼ同じというのは、ショウを責めるべきなのかクレアが小学生並ということなのか。
ショウの作戦とは、ビームライフルを撃ちながら接近してビームサーベルで落とすことだ。行動はこれだけだが、そこにはいろいろ意味がある。まず、滑走路に直進する敵機の目を自分に向けさせることだった。
だが、メッメドーザのクワン・リーはビームシールドで受け止めると、ショウを無視するように駆け抜けてしまう。あくまでも滑走路のシャトルだけを標的にしているようだった。
「乗ってるのはリガ・ミリティアじゃないんだぞっ!これで、こっちを向けぇ!」
ショウは乗っていたフライングアーマーを蹴り飛ばすようにメッメドーザに突進させた。ユリウスの嘆きがスピーカーから轟き叫ぶ。
「しょうがないだろ、これしかないんだから!」
ジェガン改にはグレネードランチャーやバズーカなど、ビームシールドに無効化されない武器は装備されていない。それなら行かないでくださいという常識的な意見が返ってきたが、ショウは敵機の動きに集中していた。バーニアを適度に吹かせつつ、的同然の速度でゆっくりと落下する。シールドを構えて、一撃を耐えられればそれでいいと考えていた。
しかし、それでもクワン・リーの気を引くことはできなかった。そのころにはメッメドーザはシュラク隊に囲まれ、ついに滑走路の前で撃ち合いが始まってしまっていたからだ。
「だから、駄目だろ、それじゃあ!」
ショウは機体を地上で安定させて、慎重にビームライフルの照準を定めた。だが、すぐにビームを放つことはできなかった。
どうしても視界に滑走路が入ってしまう。動き回るモビルスーツを狙い、味方機や滑走路に当ててはいけない。さらに生半可な射撃はビームシールドで止められてしまう。
息を呑んだ。汗が流れるのを無視した。だが、それでもチャンスは来ない。
しかし、ショウが迷っている間にもビームの応酬は続いているのである。それはついに最悪の結果をもたらした。業を煮やしたビームローターの一撃も外れ、滑走路を支える柱に吸い込まれていく。
崩れようとするレールの下にガンイージが飛び込み、すんでの所で支えに成り代わる。ショウも駆けつけようと思ったが、フライングアーマーを捨てた機体ではどうにもならなかった。
「これは壊しちゃならない!これは人類全部の宝だって事、あんただって知ってるだろ!!」
戦場という空気の中で、その言葉は空しく響いた。鉄柱が機体に食い込み動けなくなったガンイージは、ただ敵機の前に無防備な姿を晒しているにすぎない。より大局を見ていようと、献身的な行動であろうと、その意志が敵軍に通じることはなかった。
「誉めてやる。そうやってレールを支えるとは、感動的な姿だ……」
ショウにはクワン・リーの薄ら笑いが見えたような気がした。必死の思いでビームライフルを掲げ、紫色の機体に照準を合わせる。
「機体はそのまま、パイロットは死んでもらう!」
ビームサーベルがガンイージのコックピットに突き刺さる。死のイメージが流れ込んで来るのと同時に、ショウはまた別の未来を見ていた。
ビームライフルの光がメッメドーザを貫き、大爆発を起こして滑走路を吹き飛ばす。それを見てしまったショウは、ついに最後まで引き金を引くことはできなかった。
こうして、一瞬の時は過ぎ去った。
シャトルは無事発進し、目標は達成される。補給を終えたVガンダムがあっけないほど簡単にメッメドーザを撃墜する。
呆然と動かないジェガン改のそばにフライングアーマーが寄せられる。ユリウスのジェガンA型が頼りない飛行能力で浮かんでいた。
「僕…… 失敗したんだよね……」
「あの状況では仕方ありませんよ。そもそも行く方が間違っています」
ユリウスも、それ以上何も言わなかった。例によって明日からスランプに陥るであろうショウをどうするか、ユリウスにはその方が気がかりだった。
艦に戻ってからも、ショウを責めようとする者はいなかった。エリスは撃たなくてよかったのよと慰めたが、ショウの気持ちは沈んだままだった。
「違うよ……撃つべきだったんだよ……」
「そんなに自分を責めなくてもいいのよ?滑走路に当たるかもしれなかったんだから……」
「そう思ってたからいけなかったんだ……。橋なんか、壊れてもまた直せばよかったのに……
そんなのを気にして、助けられなかったんだ……」
うつむいたショウが顔を上げると、視界にモニターが入る。戦いが終わった滑走路を囲み、シュラク隊とウッソ・エヴィンが泣きはらしていた。エリスは泣くのを我慢しているショウの顔を隠してやるように抱きしめた。
「撃ってはいけない相手は、ニュータイプなら誰でも分かる。悟った振りをして逃げるのはもっと簡単だ。
やらなければならないことを見極めるのは難しいことだが……それを捨ててはいけない。俺たちがニュータイプである限りな……」
マークはつぶやきながら、その言葉を自分に向けて考えてみた。そしてある決意を固めた。
彼にとっての終焉の場に向かったとき、為すべき事は何かを心の奥底に沈め、マークは次の戦場へと思いを馳せていった。
進む
戻る
Gジェネトップに戻る