第四十話 決戦ランタオ島!! デビルガンダム四天王
〜さらば師匠! マスターアジア暁に死す(中編)〜
かつてアムロ・レイは、単機で総勢十二機のリック・ドムを相手取り、三分でこれを殲滅したという戦歴がある。これは偶然でも奇跡でもなく……英雄譚に近い存在ではあったが……純然たる戦史の一部として語り継がれる事実であった。そして歴代のガンダムを駆るニュータイプたちは、多かれ少なかれ同様の戦果を実証して見せた。
彼らと同じニュータイプであるマーク・ギルダーの戦術には、その事実が色濃く反映されている。すなわち……ニュータイプの乗るガンダムが十機あれば百二十機のリック・ドムを、百機ならば一千二百ものリック・ドムを、たったの三分で、無傷のまま殲滅が可能だという考え方である。
これを真剣に検討した軍はほとんどなく、また実現できる人数のニュータイプと高性能機を揃えることができた幸運な部隊は歴史上にも稀な存在だった。
だが、奇跡は起こった。“ブラック・ジェネレーションズ”は、まさしく一騎当千のニュータイプたちの軍団なのだ。
クレアとレイチェルのコンビネーションは、同時代の量産型数十機に匹敵する。しかも、本来ならば二人が束になってもかなわないエリスが中核にいるのだ。その真の力は、現状の三倍や五倍ではすまないだろう。
ユリウスが指揮する子供たちの部隊は、はたしてどれほどの量産機をぶつければ攻略できるのだろう。幼い心身が疲れ果てるまで死山血河を積み上げれば、あるいは不可能ではないかもしれない。ギアナ高地で雲霞のごとく攻め寄せたデスアーミーの大軍は、それに失敗した。その数がどれほどであったのか、数えられる者はいなかった。
彼らのようなニュータイプ部隊が歴史上敗北を喫した事例は、突き詰めればただひとつの敗因しかない。同等以上のパイロットを、上位の機体に乗せてぶつけた場合にしか、ニュータイプは破れたことはない。
それゆえ、ザンスパインという機体が生み出された。“ブラック・ジェネレーションズ”はそのザンスパインも有している。
図らずも、この未来世紀においてすら、その説の正しさは揺らぐことはなかった。ニュータイプたちを討ち得たのはデスアーミーの数の力ではなく、東方不敗一人の超人的な戦闘力でしかなかったのだ。
数を凌駕する質は、条件さえ整えば確かに存在する。それがマークの持論であった。
宇宙世紀では、そんな考え方の敵将は皆無だった。だからマークは、敵の数をこちらの質で押し返すことだけを考えればよかった。
だが、未来世紀は、質には質をぶつけてくる世界であった。これはマークにとっては誤算であった。
アムロの乗ったガンダムが十機いれば、リック・ドム百二十機も恐れる必要はない。だが、シャアの乗ったジオングが十機現れたら?
勝敗の趨勢が見えないばかりか、被撃墜者が出ることは避けられないだろう。この部隊を揃えること自体が奇跡に近い状況なのだ。補充パイロットなど世界のどこにも存在しない。
宇宙世紀最強を誇るV2アサルトバスターのコックピットで、マークは部下たちの勝利を祈るしかなかった。勝利を確信するだけの戦力的優位は、そこにはない。その時点で、指揮官としての失敗を、マークは心に刻んでいた。
だが、やはり彼らはそうするしかなかった……量産型の大軍を送り込んだところで、デビルガンダム軍団には通用する気配は全くなかったからだ。
戦場の運命を握る、最強戦士たちの一騎打ち…… 太古の英雄たちが騎馬と長槍で繰り広げた戦いを、宇宙世紀を越えた戦士と未来世紀の怪物たちが甦らせようとしていた。
マスターガンダムの鋭い蹴りが炸裂し、ドモンは大地に打ち倒される。デビルガンダムを眼前にしながら一歩も進むことができないドモンの姿を認め、シュバルツは機体をわずかに起こした。
「ここがリングの上だと言う事を忘れおったか! それとも四天王にしたたか痛めつけられ、立ち上がる気力を失ったかあッ!」
「ああ……!俺は、みんなの力を借りてここまで来られたんだ! その友の志を無駄にはできんっ!
俺は必ずデビルガンダムを倒すッ!!」
「まだ寝言を言いおるのかぁッ! この……」
「いや、その意気だ!!」
上空からの声に、東方不敗は言葉を切った。空飛ぶ板に乗ったガンダムが二機、凄まじい勢いで突進してくる。
ガンダムシュピーゲルは損傷のために出ては来れないと思っていた。それを支えて飛ぶHiνガンダムは、できることなら最後の最後まで手合わせはしたくなかった相手だった。
「大丈夫か、ドモン!」
「その声は!」
シュバルツはショウに短く礼を告げると、ゴッドガンダムを守るように大地に跳ぶ。彼の象徴とも言える覆面を捨てたその姿は、ドモンを厳しく鍛え育んできた者として、最も相応しい容姿を備えていた。
「おのれシュバルツ、またしても!」
「そうだ!貴様などに我が弟をやらせはせんッ!!」
ドモンはこの苦境の中、一瞬戦いを忘れたかのように顔をほころばせた。敵として追い求めてきたはずの兄キョウジが、自分を鍛え、助け続けてくれたシュバルツの正体だった……その事実はこれまでの悲運の人生を一転させる、ガンダムファイト優勝に勝る朗報である。
だが、東方不敗は不敵に笑った。
「ふはははははははっ! ……やはりな。貴様の正体、ワシの思っていた通りであった!」
ドモン達の目の前で、デビルガンダムのコックピットが開いていく。そこにフィン・ファンネルの一撃を叩き込めば、戦いはそれで終わっただろう。だがショウにもドモンにも、攻撃することはできなかった。
「ええっ……!シュバルツさん!?」
「こ、これは……!? 兄さんが……兄さんが二人いるなんて……!!」
ショウとドモンは、真逆にして同一の言葉を叫んだ。ガンダムシュピーゲルの中で苦痛にうめくシュバルツ・ブルーダーと、デビルガンダムのコックピットに縛り付けられているキョウジ・カッシュは、全くの瓜二つ…… ショウはあまりにも似すぎている二人を見て、プルとプルツーを思い出していた。
「ドモン!見たか、屍同然の兄の姿を!お前がギアナ高地でデビルガンダムを倒した、その代償がこれだ!!
さしものデビルガンダムも、パイロットがこれでは鉄クズも同じ!しかるにドモンよ、貴様が新たなパイロットとなり、デビルガンダムを完全復活させろ!! それが兄に対する、たむけとなるのだぁっ!
うわぁっはっはっはっはっはっはっはっはっは……!!」
東方不敗の哄笑を、ショウとドモンは呆然と聞いていた。なぜ同じ人間が二人いるのか。キョウジとシュバルツはどういう関係なのか、シュバルツ・ブルーダーとは何者なのか……その疑問を呈するよりも前に、デビルガンダムから新たな声が放たれた。
『その必要はありませんよ。東方先生、ご苦労様でした』
ネオホンコン首相、ウォン・ユンファの声が響く。それと同時に大地が砕け、裂け目からガンダムヘッドが牙を剥いて出現する。東方不敗さえ、この動きには驚き、言葉を荒げて返した。現状ではデビルガンダムは復活を待つための仮死状態に近い。これ以上に無理な負担をかけて、完全に機能停止してしまえば元も子もないのだ。
「馬鹿な……! ウォン、何をする気だ!?
キョウジの命はもはや風前の灯火!新たなパイロットを乗せぬ限り、デビルガンダムの完全復活は無いのだぞ!」
『いやいや……少しの間くらいなら、パイロットがいなくてもデビルガンダムは動かせる。
そう、あなたを倒すくらいにはね……!』
その言葉が終わるやいなや、数十の牙がマスターガンダムめがけて殺到した。ドモン達も同士討ちを見ている場合ではなかった。ガンダムヘッドの数はあまりにも多く、マスターガンダムの近くにないものが襲いかかってくるのである。
「ウォン! 貴様ぁ……!!」
「おじいちゃん、危ないっ!」
かつての教えと誓いも忘れ、ショウはフィン・ファンネルの盾をマスターガンダムに向けて飛ばした。東方不敗は邪魔だとさえ思ったが、フライングアーマーに乗って駆けつけるHiνガンダムを見て、素直にそれに同乗した。
「おじいちゃん、どういうことなの、これって……!?」
「ウォンめ、本性を現しおって……! だが、あやつの安っぽい野望のために、デビルガンダムを利用させはせん!
デビルガンダムは……デビルガンダムは、ゴホッゴホッ!!」
突如東方不敗は咳き込み、体を崩した。モビルトレースシステムはそんな動きさえ再現し、マスターガンダムのバランスを崩す。ショウは機体をフィン・ファンネルで守りながら、岩陰に身を隠すのが精一杯だった。
「おじいちゃん!? 大丈夫っ、おじいちゃん!」
「く……くそっ、こんな時に……」
Hiνガンダムの腕の中に倒れ込む東方不敗は、抱きしめる腕に不思議な安らぎを感じていた。
「キエエエエエッ!」
奇声とも怪鳥音ともつかない、ミケロ・チャリオットの叫びが辺りを支配していた。
戦況の不利は明らかだった。ボルトガンダムもドラゴンガンダムも接近戦を重視し、砲撃戦用の武装はほとんど持っていない。それに対して、ミケロのガンダムヘブンズソード……“天剣絶刀”を名乗る凶鳥を模した奇怪なガンダムは、その姿の通り空中から攻撃を続けている。
洞窟のようになった岩場に隠れ、サイ・サイシーはなんとか反撃の糸口を探していた。
「アルゴのおっさんよぉ! アンタ、命は惜しいか!?」
「囚われの仲間を救うまでは死ぬわけには行かんッ!」
「オイラだって!少林寺再興を果たすまでは死ねないよ!」
意を決して飛び出そうとした矢先に、戦場を舞う赤い光の翼に気がついた。
「オッサン……なんだろ、あれ?」
「ガンダムではなさそうだな……あいつらの軍用機か?」
未来世紀では、ガンダムではない機体はそれと比べて一段劣る性能しかないと思われがちだ。ミケロもその常識に従い、空を飛べる奴から始末しようと考えた。
だが、アルゴもサイシーも、ギアナ高地で共に戦い、その力はよく知っている。まして、上空を軽やかに踊る紅紫の舞姫は、最強の機体との一騎打ちのために作られた……宇宙世紀から送られた、ガンダムファイト用のモビルスーツと言っても過言ではない機体なのだ。
「ゴッドガンダム!? ドモンのやつ、戻って来やがったのか!?」
「いえ、“ブラック・ジェネレーションズ”にも、ゴッドガンダムがあったはずです。彼らが救援に来てくれたのでしょう」
「……って言ってもなぁ。こいつぁ、さすがにあいつらでも分が悪いんじゃねーか?」
要塞が咆吼をあげていた。ザンスカールの地球クリーン作戦の前にこの怪物が立ちはだかったなら、頑強な抵抗を見せたに違いない。それに2,3機のモビルファイターで立ち向かうのは、まさしく無謀としか言いようのない行動である。
宇宙世紀でこんな強敵が現れたときは、機体の整備を万全に整え、強力な機体を揃えて一斉に襲いかかったはずだ。アキラ・ホンゴウに戦略眼というものが備わっていたとしたら、迷わず救援を求めただろう。だが、彼にあるのは勇気と闘志である。
だが、それではこの“獅王争覇”を号する動く要塞、グランドガンダムを止めることはできない。戦艦の主砲を想起させる巨大な火砲の連射に押し切られて後退を余儀なくされる。接近戦に特化したゴッドガンダムでは、これほどの砲撃の前では為す術もなかった。
岩場の陰に身を隠し、チボデーたちと合流できただけでも幸運だったと言えよう。
「よう、ジャパニーズ?せっかく来てくれたのに何だが、こいつぁやばいぜ……?」
「やはりビットだけでは、決定的なダメージは与えられませんでした」
チボデーはお手上げというように両手を振った。ジョルジュの顔からも、普段の余裕はなくなっていた。
二人の武器では打ち破れない堅牢な外殻が、DG細胞の再生能力によって修復され続ける。至近距離からコックピットを狙うしかない……その案には、三人の誰もが頷いた。
誰かが突破口を開き、残った者が攻撃する。問題は誰が死地に赴き、誰がその背中を見つめるのかだ。
踏み込む勇気は三人の誰もが持っている。だが、自分が残るからお前が前に出ろと言うつもりは、誰にもなかった。
多方面で同時に発生した激突の中で、最も早く戦場に辿り着いたのは、直線距離では一番遠い場所であった。だからこそ、市街地で行われている戦闘にはペーネロペーが駆けつけたのだ。ライジングガンダムと、丸っこい本体に細い手足が付いただけの、贔屓目に見ても他の四天王ほどの迫力はないコミカルな機体……ウォルターガンダムが火花を散らしている。
「あれもモビルトレースシステムなんだよね。どうやって動かすんだろ?」
クレアは余裕の笑みを浮かべた。これならすぐに撃墜して、他の助けにも行けるだろう。
「レイン、どいてっ!一発で吹っ飛ばすよ!」
「ダメ……攻撃したら!ウォルターガンダムのパイロットはアレンビーなのよ!」
レインの返事を聞いたクレアは愕然とした。本当にアレンビーならば、そうと分かる自信はあったのだから。
「それって、どういうこと!?」
『アレンビーはもはや、あなたの知るファイターではないということですよ。クレア・ヒースロー……』
「ウォン首相っ!?」
通信に割り込んできた顔を見て、クレアは何が起こったのかを察した。アレンビーの乗っていたノーベルガンダムには、バーサーカーシステムという洗脳装置に近いものが装備されていた。その機体をDG細胞で変異させたものなら、それもさらに凶悪な力を持っているはずだ。
「アレンビー!ダメだ、それに乗っちゃ!それは悪魔のマシーンだっ!!」
『ハハハハハハッ!残念ですが、今のアレンビーにはあなたの声は届きませんよ。
さあ、そんな奴はさっさとふりほどいて、デビルガンダムのいるランタオ島へ戻りたまえ!デビルアレンビーとなってなぁっ!!』
ウォルターガンダムが禍々しい光を放ち、ライジングガンダムを跳ね飛ばす。そして上空のペーネロペーを見やると、獣のような雄叫びと共に突撃した。
「ぐぅあああああああ────ッ!!!」
パイロットとして培ってきた技術と反応が、反射的に機体を上空に押し上げる。
攻撃をかわすだけなら難しくはない。恐らく、本気でやれば撃墜も簡単だろう。ウォルターガンダムはパワーはあるが、ペーネロペーの性能はそれを上回っている。ペーネロペーは天啓のごとくクレアの力量を引き出してくれるが、ウォルターガンダムの異形は、お世辞にもアレンビーの戦闘スタイルに似つかわしい姿はしていなかった。
だが、それができるはずがない。クレアは焦り、憤ったが、事態を変えることはできなかった。人と同じ動きで自由自在に格闘ができるモビルファイターとは違い、モビルスーツは敵を殺すための武装しか搭載されていない。
荒れ狂うデビルガンダムの視界から逃れ、四人は二手に分かれて岩陰に潜り込んだ。
意識が混濁しているのか、マスターガンダムはHiνガンダムに抱かれたまま動きを見せなかった。ショウは何度も呼びかけたが、東方不敗の返事はなかった。夢でも見ているのか、よく聞き取れない譫言を繰り返していた。
スピーカーからは、ドモン達の声が聞こえてくる。彼らも無事だと言うことが唯一の心の支えだった。
「兄さん!兄さん! やっぱり無理だよ、早く手当てを!」
「いや、もう大丈夫だ……。
それより、ドモン。キョウジを討て!やはりキョウジを討たない限り、デビルガンダムは倒せん!」
シュバルツの声は苦痛にうめき、強靱な意志の力でかろうじて意識を保っているだけだと感じ取れた。一刻も早く……まだ体が動く間に、全ての決着をつけようとする意図を持っていた。
だが、まだ多くの謎が残っている。意志をひとつにして突撃するには、いまだドモンは混乱したままであった。
「そ、そんな……そんな事言ったって、俺には分からないよ!
どうして兄さんが二人もいるんだ!? これは一体どういう事なの!兄さんっ!」
確かに、秘められていた謎を抱えたまま命が尽きることがあってはならない。シュバルツは苦しみながら、長く絡まったままだった疑問の糸を解き始めた。
「分かった……全てを話そう。いいか、私はキョウジであってキョウジでない。言わば……影。
二つに分かれてしまった体と心……いわば、鏡に映ったキョウジの影なのだ!
なぜならば、私はDG細胞の力を借りて作り出された、キョウジのコピーにしか過ぎないのだから!」
「なんだって!?」
ドモンは驚愕し、ショウも耳を疑った。だが、真実の告白はさらに続いた。
「全ては、デビルガンダムを抹殺するためだった……!」
「そんな! あれを使って、全宇宙の征服を企んだのは兄さんのはず……!?」
「それは違う! そもそもデビルガンダムは地球再生を目的として作られたものだ!」
シュバルツは声を荒げて力説した。最も大きな誤解だけは解いておかなければならなかった。
「地球再生……?」
それはドモンが予想もしていなかった内容だった。一心に戦いを駆け抜けてきたドモンにとっては、それは専門外の話に近かった。
「そうだ。父さんのアルティメットガンダム三大理論……。自己再生、自己増殖、自己進化は、全て地球の自然復活のための物だった。
だが、その驚異的な力に目をつけた者がいた。私はアルティメットガンダムに乗り込み、地球へと逃れた……!
しかし落下の衝撃でプログラムは狂ってしまい……そして、あの恐ろしいデビルガンダムと化してしまったのだ……!!」
それは疑問の氷塊だけではなかった。
誤解に端を発する兄への憎悪や、家族を襲った悲劇の本当の理由……その全てを胸の内に秘め、戦い、そしてドモンを助け成長させ続けたシュバルツの背中を思い起こして、ドモンはどれだけ詫びようと気持ちが治まらず、どれだけ讃えても敬意の表明にならないほどに激情の渦に巻き込まれていた。
「じゃあ俺は、そんな事も知らずに兄さんを追いかけていたなんて……!」
「根が素直なお前は騙されてガンダムファイターとなり、キョウジを追ってくるに違いない。だが相手は恐ろしいデビルガンダム。お前が無茶をするのは目に見えていた。
そこで、デビルガンダムに取り込まれたキョウジは、その薄れゆく意識の中で、倒されていたネオドイツのファイターを母体にして、自分の全人格を移し込んだこの私を作り上げ……キョウジに代わって影となり、ドモンを守ってくれと言い残したのだ……」
「なら、どうして!最初に出会った時に、本当の事を言ってくれなかったんだ!?」
「あれだけ頭に血の上ったお前に言ったところで、信じるはずがあるまい。
それに父さんの命がかかっている以上、お前は何よりもガンダムファイトに優勝しなければならない。うかつな事ができるか……」
ドモンはゴッドガンダムを通して、兄の体を固く抱きしめた。無骨な彼には、これ以上のことはできなかった。
だが、それで十分だった。話を聞いていただけのショウにさえ……彼らの心が、固くひとつに結び合ったことは、ニュータイプの感覚を用いるまでもなく感じ取れたからだ。
「兄さん……!あんたは兄さんだ!間違いなく俺の兄さんだぁぁっ!!」
「ドモン……!私も……私も辛かったぞ……!!」
付かず離れず、一定距離を保って飛び回るザンスパインを捕らえられずに、ミケロは焦りを大きくしていた。その意識は、地上で彼の隙を虎視眈々と狙うガンダムファイターたちからは離れ、華麗に舞い踊る光の翼に集中していた。
一方のカチュアは、ミケロの叩きつけるような意志を軽くかわして、ビームライフルを撃ち続けていた。
なにしろ、敵の攻撃方法が尋常ではない。翼の一部を刃物にして発射する。羽ばたいて竜巻を起こす。あげくに羽ばたきで火炎放射を巻き起こす…… 光の翼で接近戦を挑んでも勝てるとは思ったが、近寄りたくないという思いの方が強かった。
「チョコマカ逃げ回りやがって、このクソガキがぁぁッ!!」
ガンダムヘブンズソードの脚部から、かつての技よりも輝きを増した虹色の光が乱れ飛ぶ。本来ならば、上空から獲物を追いつめ、仕留めるはずの必殺技である。
だが、返ってきたのは挑発的な子供の笑い声だった。
「はいはいはい残念でした〜★」
「うるせえ!!」
逆上したミケロは完全に鳥の姿に変貌し、体当りをするかのように突進した。その眼前に、突然ビームサーベルの切っ先が突きつけられた。モビルスーツなどいない空間から、四本が同時に。
「ギエエエエエエッ!!」
刃で身を裂かれる怪鳥の叫びが空を駆け抜ける。モビルトレースシステムの与える激痛は、DG細胞に身を冒されていても変わることはなかった。そして、羽ばたきをやめれば、鳥は飛ぶことができない。ミノフスキードライブの光の翼とは根本的に違いがあった。
落下するミケロの視界に、金色に輝くドラゴンガンダムの飛翔が見えた。飛行こそ不可能だが、信じがたい距離の跳躍と軌道修正……爆熱ゴッドフィンガーさえも一撃のもとに打ち砕いた少林寺の秘拳、真・流星胡蝶剣の輝きである。
サイ・サイシーにとっては狙いに狙い続けた千載一遇の一撃であり、ミケロにとっては完全な不意打ちだった。
「こい、鳥野郎!フライドチキンにしてやるぜ!!」
地上で待ちかまえる金色のボルトガンダムが、グラビトン・ハンマーを振り回して勢いをつける。
ドラゴンガンダムは勢いを緩めず、ヘブンズソードを盾にするように降下していった。
「そ……そんな馬鹿なァァ!!」
グラビトン・ハンマーの衝撃が全身を揺るがし、ミケロは大地に叩き伏せられた。翼は引き裂かれ、背骨はドラゴンガンダムの一撃で砕かれている。なぜこうまで徹底的に叩かれたのか、彼はついに悟ることはなかった。有利な位置を占めているつもりで、いつの間にか相手の間合いに誘い出され、総員の火力を集中して一撃で勝負を決めたことを。
ドラゴンガンダムの背の旗が、槍のようにビームを放って怪鳥に突き立てられる。それがデビルガンダム四天王、ガンダムヘブンズソードの最期だった。
「俺が行こうッ!」
誰が言い出してもおかしくはなかった。言いだした者が止められるのも分かっていた。アキラが最初に言い出したのは、重い緊張に耐えられなくなったというのが正確なところだった。
「やめとけよ、ジャパニーズ? わざわざこんなところで死ぬこたぁないぜ」
「そうです。国家の名誉を背負ったガンダムファイターが、他人を捨て石にして生き延びるなど、死に勝る屈辱。
ここはこの私が先に出ましょう」
チボデーやジョルジュの顔には、死を前にした悲壮感も、戦士としての義務感もない。彼らはその運命さえも粛然と受け入れる覚悟を持ち、それを当然のこととして行う勇者たちだった。
「待ってくれ!だからこそ……生き残るのはあんたたちじゃなくちゃいけないんだッ!」
「What...?」
「なぜです!?」
アキラは彼らほどに強くはない。それが分かっているからこそ、勝利のために弱者を盾にすることは二人にはできない。
「あんたたちには、守らなければならないものがあるんだ……!
国の名誉のために……掴み取る夢のために、どうしても生き残らなくちゃいけないんだろう!
だが、俺にはそんなものは何もない……!なら、死ぬのはこの俺一人であるべきなんだッ!!」
反対する二人の言葉が止まった。確かに、ここで倒れることは、無念を残して死んでいくことになる。それさえ当然として覚悟を決めてはいたのだが……
「それに……悔しいが、俺には自信がない……!あんた達が突破口を開いてくれたとしても、あの怪物にとどめをさせるとは思えない。あんた達が倒れたあとで、まともに戦うことなんか俺にはできやしない……!
俺は危険を無視して突っ込むだけの、無茶な馬鹿だったんだ…… あんた達みたいな、本当のファイターなんかじゃなかった……。だからッ!!」
結論を待たずに、ゴッドガンダムは敵の砲火の前に身を躍らせた。二人の声がその後を追うが、もはや止めることはできなかった。ファイターの実力とは関係なく、ゴッドガンダムのバーニア出力はチボデー達の機体を上回っていた。
「あんた達が生き残るために、俺の命を使ってくれ───ッ!! 俺にできるのはそこまでしかないんだッ!!」
アキラの機体が黄金の光を放つのを、チボデーとジョルジュは確かに目撃した。
「ぐぅあああああああ────ッ!!!」
「アレンビ──ッ!!私が分からないのっ!?」
両手からビームを乱射し、勢いを殺さずに体当りを仕掛けるウォルターガンダムの攻撃を回避しながら、クレアは攻撃できずに逃げまどうしかなかった。
「うるさぁぁい!! ドモンは!ドモンはどこなの───っ!!」
「ドモンはデビルガンダムと戦ってるの!こんなことしてる場合じゃないんだってば!」
「どいてよぉぉぉっ!! アタシだって……ドモンのこと好きなんだからぁぁぁ───!!」
クレアはウォルターガンダムの勢いを避けながら愕然とした。
どれだけアレンビーが望んでも、友達として仲が良くなっていても、ドモンの相手はレインだというのは誰の目から見ても決定的だ。シュバルツとの戦いを経たあとでは、もはや誰にも動かしようがない。
そのかなえられない思いをバーサーカーシステムで増幅している。そうと悟った瞬間、クレアはウォン首相に本気の殺意を向けた。
「なんてことをするんだっ、あんたは! アレンビーがどんな気持ちで戦ってきたのか、考えたことがないの!?」
『アレンビーの意志など関係ありませんよ。中枢ユニットとして適任であれば、パイロットなど誰でも構わないのです!
バーサーカーシステムが体を動かし、DG細胞が無限のパワーを与えてくれる!』
「人を通して出る力……そんなものが、モビルスーツを倒せるものか!!」
クレアは親友の放つ雄叫びの前に機体を飛び込ませた。ウォルターガンダムの牙が、ペーネロペーの前部に突き出たメインセンサーを食いちぎる。それを犠牲にして、クレアは両手でウォルターガンダムを押さえ込み、地響きを立てて地上に降り立った。
ウォルターガンダムの狂気の光を封じ込めるように、白銀の装甲を真紅のオーラが包んでいく。
『ま、まさか……!ニュータイプにもあるのか、スーパーモードが!?』
カミーユ・ビダンやジュドー・アーシタの起こした奇跡を未来世紀の人が見れば、当然その表現を使うだろう。クレアはそれに言葉は返さず、アレンビーに叫び続けた。
「アレンビー!私を見てっ!!」
ウォルターガンダムを地面に押しつけ、動けなくすると、クレアはペーネロペーのコックピットを開放した。突風が流れ込み、ビルの上から見下ろしたような距離に地面が見える。ゴクッとつばを飲み込むと、機体を噛みついたまま離れないウォルターガンダムに真剣な眼差しを向けた。
「絶対かなわないと分かってる人より、手を伸ばせば届くかもしれない相手の方が、ずっとずっと楽しいんだっ!
アレンビー!私は、おまえを離さないよ!!」
『な、なにをする気だ!』
アレンビーを助け出したら構わず撃てとレインに伝え、クレアはコックピットから飛び出した。風に煽られ、一瞬体が浮き上がる感覚が起こる。数秒の浮遊で、何メートルの距離を跳躍しただろうか。着地に失敗すれば確実に命がない高さで、ウォルターガンダムのコックピットに飛びつくと、ハッチを開けるためのボタンに手を伸ばす。
クレアはそこで一瞬止まった。コックピットのハッチを外から開けるには、当然パイロットたちしか知らないパスワードが必要だ。それを知らない以上、アレンビーがどんな数字の組み合わせにするかを予想するしかない。
「しまったなぁ……誕生日聞いとくんだったわ。他にあいつがやるとしたら……!?」
神経を研ぎ澄ませ、かつて笑い合った瞬間を思い出す。ネオホンコンの街を駆け回り、ゲームで遊び、お風呂でもベッドの中でも話題と笑顔は尽きなかった。
「教えて、アレンビー……。あんたならどうする……こんな時……!」
数秒、コンソールパネルを見つめて……そしてクレアは、自分がペーネロペーに設定したものと同じ番号を入力した。
東方不敗は夢を見ていた。
ドモンと、シュバルツとさえ共に手を取り、邪悪を討ち滅ぼす戦場にいた。
ガンダムを操り、技を振るうことではなく……幻に見た不死鳥のガンダムに己の力を伝え託す。そのガンダムに乗っているのが誰なのか、東方不敗ははっきりと悟った。
そうか……お前であったか……
よかろう。ワシらの力が必要とあらば、いつでも呼ぶがよい。ワシらはいつでもお前の心の中におる……
災いをもたらす黒いガンダムが二機、少年に立ちはだかる。背後からの不意打ちを切り返すと、巨大な砲門の前に敢然と拳を向けた。
「よいかぁッ!己の魂を極限まで高め、一撃のもとに爆熱させるのじゃぁッ!!」
「うんっ、おじいちゃんっ!!」
ガンダムの右手に強烈な光が集まっていく。それはこの世のことか、それともただの幻なのか、東方不敗には分からなかった。
「……おじいちゃん、おじいちゃんっ!!」
彼を呼ぶ声が繰り返される。混濁した意識のまま、うわごとのようにつぶやき返した。
「あ……ああ、もう大丈夫じゃ。ワシはまだ死なぬぞ……デビルガンダムで、この地球の自然を救うまでは……!!」
そして、完全に目を覚ました東方不敗は、彼を取り巻く状況を思い出した。そこは見たこともない宇宙空間ではなく、ネオホンコンのランタオ島である。
「大丈夫、おじいちゃん!?」
気を失っている間、ずっと守り続けてくれたのだろう。東方不敗はショウを見上げると、何とも言えない感情のうねりに包まれた。
目を覚ましかけたときにつぶやいた、地球の自然を救うというのがどういうことかショウが問いかけようとしたとき、事態は急転した。彼らが隠れていたところからも、ガンダムシュピーゲルがデビルガンダムに特攻をかけるところが見えた。
「貴様、何をする気だ!?」
「知れた事!!デビルガンダムを食い止める!!」
東方不敗は叫んだが、体を動かすには至らなかった。ウォンに操られ、敵味方の判別をしていないデビルガンダムの前に飛び出しては東方不敗自身も攻撃されかねない。
シュツルム・ウント・ドランクの回転で機体を巻き上げ、バルカン砲の斉射を弾き返してシュバルツは突撃した。開いたままになっているデビルガンダムのコックピットに飛び込み、操作を失ったガンダムシュピーゲルが破壊される音を背後に聞く。
そして己を生み出した男のやつれた姿を抱え上げると、己の最期の使命を果たすべく振り返った。その瞬間、ガンダムヘッドの動きが全て止まった。
「……キョウジ!!」
「シュバルツか……。ドモンが……来ているのだな……」
瞳の光を失ったまま、キョウジ・カッシュはゆっくりと顔を上げた。それは、まさに死相である。
アキラは砲撃の的になりつつ、機体の高度を可能な限り上げた。
真横に突き進むより、落下速度を加えた方が技の勢いが増す。砲撃の角度を上に向けさせれば、地上はそれだけ目が届かなくなる。グランドガンダムの中にいるのは機械ではない。注意をそらせば隙はできるはずだ。
それを見上げるチボデーとジョルジュは、ゴッドガンダムの両手に、同時に高熱が宿るのを見た。
「ゴ……ゴッドフィンガーを……!」
「二刀流……!?」
機体の高度を頂点まで引き上げ、アキラは両腕を天に掲げた。これが自身の繰り出す最期の技になることも、彼は確信していた。
「俺の両手が真っ赤に燃える!!己を超えろと轟き叫ぶぅぅっ!!!」
グランドガンダムの意識は完全に引けただろう。勝てるか否かは問題ではない。たとえ全力を尽くしたとしても、勝てる可能性など最初からない。だからこそアキラは、生還の見込みのない技に命を尽くすことができた。
「……超級ッ!!」
ゴッドフィンガーを燃やしたまま、機体を激しく回転させる。それは全身に炎が回るような火力をもたらし、ゴッドガンダムは炎の竜巻と化した。装甲が焼け、モビルトレースシステムが高温による火傷を再現する。
「……爆熱ッ!!」
両手のゴッドフィンガーを合わせて握りしめ、その威力を相乗、倍加させていく。己の拳を焼き尽くす痛みが、アキラの精神を失神寸前に追い込んでいく。その意識と生命が途絶えるより早く、アキラは全力で突撃した。
「電ッ!!影ッ!!だぁぁぁぁぁ──────ん!!!」
さながら、天より魔を射抜く黄金の矢のような光景だった。巨大な角を振りかざして待ち受けるグランドガンダムに、吸い込まれるようにアキラは姿を消し……彼の雄叫びをはるかに超える轟音と共に、大爆発を引き起こした。
「あの野郎……ッ!」
「まさか、こんな……!いえ、チボデー!」
ジョルジュは激しく降り注ぐ残骸の中に、両腕を失ったゴッドガンダムの姿を見た。
「いけるぜッ、今なら……!!」
グランドガンダムの装甲に巨大な裂け目が生まれ、コックピットを直接狙う弱点ができていた。
ジョルジュは落下するゴッドガンダムを抱きかかえ、チボデーが敵の真正面に躍り出る。
「行かせてもらうぜぇ!お前の切り開いたビクトリーロードをなぁ!!」
「この思いに応えずして、何が騎士道か……! 行けっ、ローゼスハリケェェェ───ン!!!」
ビットの回転が起こす竜巻が、内側から装甲を破り、裂け目を大きく引き裂いていく。チボデーの目にグランドガンダムの中枢と、勝利の女神の微笑みがはっきりと見えた。
「俺は夢……!俺は希望!俺はこの手で掴む!!
豪ねぇぇぇぇつ!!マシンガァン・パァァァァァンチィィッ!!!」
一撃必殺の拳が数十、数百、さらに数を超えて叩き込まれた。それでアキラの健闘に応えたというつもりはない。両腕が折れるまで撃ち続けて、なお追い着いたにすぎない。
だが、そこまでの必要は、もはやなかった。爆発の中に沈むグランドガンダムを眺めて、彼らはようやく戦いの勝利を悟った。
巻き起こる爆発音を聞いたのか、体の痛みからか、アキラはゆっくりと目を開いた。
「か…… 勝った…… のか……?」
ゴッドガンダムを抱き起こしたジョルジュは、マリアルイゼ姫にさえ見せたことのない会心の笑みを浮かべた。
「勝ちましたよ!私たちの大勝利です!!」
「ああ、勝ったのは、俺たちだがな……」
チボデーもゴッドガンダムの肩を叩いて、九死に一生を得た幸運児を祝福した。
「MVPは、間違いなくお前だぜ、ジャパニーズ!!」
ウォルターガンダムのコックピット内に、外から光が差し込んでいく。モビルトレースシステムが機能を中断し、アレンビーはハッと目の前を見た。会心の笑みを浮かべたクレアが親指を立てていた。
「どうして……パスワード、分かったの!?」
「7650じゃ、秘密の番号にならないよっ!」
クレアは嬉しそうにウォルターガンダムの中に駆け込み、アレンビーに近づいていく。だが、中にいたアレンビーは真っ青になった。
「クレア、来ちゃダメ! この機体はもう、DG細胞が……!」
言い終えるより前に、キョウジを縛り付けていたものと同じ触手がクレアの手足に絡みつく。
「わわっ!? やばいっ、ハメだっ!」
慌てて手足を動かしてみるが、クレアは大地を割り空を裂くほどの膂力は持っていない。アレンビーは自分と同じようにDG細胞に取り憑かれたクレアに、猛然と突進した。
「ハメは抜ければ、ハメじゃないんだぁ───っ!!」
クレアを縛る触手を引きちぎり、体を抱きしめてコックピットから飛び出し、宙に身を投じる。常人はもちろんクレアでさえも、この高さから地面に激突すれば死は免れない高度であった。
その光景を、ライジングガンダムの中からレインは見ていた。そして操縦者を失ったウォルターガンダムに、必殺の一矢を放ったのだった。爆発の閃光と轟音が市街を揺るがし、そしてここでも、戦闘は終わりを告げた。
「……なんで生きてるのかな、私?」
アレンビーと抱き合うように地面に伏せて爆発をかわしたクレアは、親友の体温を感じながらつぶやいた。
「そりゃあ、クレアが助けに来てくれたからに決まってるでしょ?」
「そのつもりで、助けられちゃったけどね……?」
二人は顔を見合わせて微笑み、大きな声をあげて笑った。レインが上から、DG細胞の治療をしに病院に連れて行くと叫んでいる。二人は手を取り合って、傷つき疲労した体を休息に向かわせた。
「ドモン!撃て!! 私と一緒に、デビルガンダムを!!」
シュバルツは強く鋭く、最後の檄を弟に飛ばした。
「早く!私の体ごと、コックピットを吹き飛ばすんだぁっ!!」
キョウジ・カッシュもまた、ドモンすら足元に及ばぬ天賦の才に比してあまりにも短い人生の最後の力を、弟への激励に費やそうとしていた。
だが、二人の兄を前にして、ドモンは子供のように声を裏返した。
「そんな……!僕にはできない!」
「甘ったれた事を言うなぁッ!!」
シュバルツは最後の最後まで、ドモンに声を荒げる事になった。だが、今はそれを責める余裕も時間も……命すらも、ない。
「その手に刻まれた、シャッフルの紋章の重さを忘れたか!!お前がこいつを倒すための礎となった、仲間たちの事を思い出せ!!」
「お前もキング・オブ・ハートの紋章を持つ男なら、情に流され、目的を失ってはならん……!
それとも、こんなキョウジのような、悲劇が繰り返されてもいいのかッ……!!」
シュバルツとキョウジの言葉は、ドモンに己の意義を思い出させていった。
友たちのために。兄たちのために。父のためにも、全世界のためにも……
「やるんだぁッ!! デビルガンダムの呪いから、私たちを解き放つために!!」
「頼むドモン……デビルガンダムに最後の一撃を……!」
その光景を、ショウは間近で見続けていた。東方不敗が飛び出そうとし、それを抱きとめるのが精一杯だった。
今度も、また……未来世紀にやってきてもまた、助けられずに見ているしかない自分を嘆き、無力さに小さな手を握りしめていた。
「シュバルツさん……!」
「ショウ……」
眼下に見えるHiνガンダムに一度目をやり、魂の兄弟は別れを惜しんだ。
その間、ドモンは引き裂かれる思いを拳に込めて、兄に捧げる鎮魂の技を念じていた。
「兄さぁんっ……!」
「ドモン……」
長い別離と誤解の末に、ついに兄弟は心をひとつにした。
石破天驚拳の光弾が、この瞬間を少しでも引き延ばそうとするかのように、ゆっくりとデビルガンダムに向かっていく。その一瞬とも数分とも感じられる時間に、ショウは消えゆく二人の意志が絡み合い、分かたれた人格が解け合うのを感じ取っていた。
……長く苦しい戦いだった。こんなことをさせて、こんな結果に終わってしまって……お前には済まなかったな、シュバルツ……
……いいのだ、キョウジ……それも全て終わったよ。ドモンが本当によくやってくれた……
……ああ。さすがは、自慢の弟だよ……
……私たち二人のな……
光の中に溶ける二人の微笑みが、一人の人間に戻っていく。
「ドモン……」
シュバルツ・ブルーダーは、己が鍛え続けた弟の拳を、万感の思いで受け止めた。
「ドモン……」
キョウジ・カッシュは、その壮絶な生涯の幕を下ろす役を担うことになった弟に、深い感謝の念を送った。
そしてデビルガンダムの中枢を貫く大爆発の中で、シュバルツとキョウジは辞世の言葉を弟たちに遺していった。ショウが泣く声も、ドモンが叫ぶ声も、もはや二人には聞こえなかった。
「「ありがとう……!!」」
二人の思いを飲み込みながら、全世界を揺るがした最強最悪のガンダム……デビルガンダムは轟音と共に、その巨体を大地に沈めていった。
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