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第十九章;「何処でもない場所」


 スキゾな女の子から謝罪メールが来た。件名『from "99th"?』。同時に受信した狂った件名のメールと纏めてスパム指定しようとして、なんとなく開いた。まあ、添付がなけりゃ問題ない(そこに不快なコピーが浮かんでいたとしても)。冒頭から別人みたいな社会人的口調の文章──女王様は何処行った?(あの罵倒っぷりは)。しかも機械的なHNを名乗っているというのに、ヘッダーに差出人氏名がモロに出ていた。本名。相手は血の通った人間なんだ、と思ったら何だかやり切れない気分になった。しばらくモニタに浮かぶ名前を眺める。背景が挿入される事で、重みは変わる。それはクラスに居そうな名前の女の子だった。

 朝、2005年11月20日の夢を見た。過去の再生。昼過ぎから一人で新宿南口を歩いた。雑踏、雑踏、雑踏。圧縮されそうな程の人の波に身を任せていると、逆にフラットな気分になる。恰もBPMの高速化に因る飽和状態の様に。ある一定の速度を超え、静止してしまったような感覚に近い。この感じ、何かに似ているなあとぼんやりと思ったら、先日行ったレイヴで見たAutechreのステージだという事に気付いた。雑踏はクラヴのフロアに似ている。無名の人物が次々に流れ込み、そして散っていく。見上げればビルの壁に反射するオレンジのライトがある。それはまるで巨大なミラーボールの様に見えた。「帰り道に寄って」と受話口で云うミライに「今日はやめとく」と返事をし、マフラーを巻き直してまた歩き出した。

 夜、恋人と共通の友人の死を知る。フライング気味のクリスマスプレゼントを渡すタイミングを逃してしまった。ソファで放心する恋人の前髪を無言で撫でたら「何処でもない場所」を眺めたまま泣いていた。「自分だけが生き延びると思うのは驕った考えだと思わない?部外者みたいに周りだけが死ぬみたいに思ってるね。これは順番だよ。例外はない」と云うと、ハグされた。──違う、自分だって喪失感に吐き気がしていた。「ただ/かなしい」ということ。何で先週、逢いに行かなかったんだろう?とか。考え出した瞬間に、過去は全身を梱包する。お互い黙って床にそれぞれ座って声を殺して泣いていた。時々、水を飲んだ。猫が空気を読んで、何度かやってきて顔を舐めた。空間の空気を共有するのは人間も動物も同じなんだと思った。
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